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茶色の朝
『茶色の朝』(大月書店発行) フランク バブロフ 物語   藤本 一勇 訳
陽の光がふりそそぐビストロで脚を伸ばしながら、
俺とシャルリーは、とくに何を話すというわけでもなく、
お互い頭に浮かんだことをただやりとりしていた。
それぞれ相手がしゃべる中身にたいした注意は払っていなかった。
コーヒーをゆっくり味わいながら、時の流れに身をゆだねておけばよい、心地よいひとときだ。
シャルリーが犬を安楽死させなきゃならなかったと言ったときはさすがに驚いたが、ただそれだけだ。
よぼよぼになった犬ころを見るのは悲しいものだが、
15年も生きれば、いずれその時がくると思っていなけりゃならない。
「わかるだろう、あの犬を茶色だって言い張るには無理があったんだ」
「たしかに、あんまりラブラドールの色じゃないよな。けど、何の病気だったんだ?」
「病気のせいじゃない。茶色の犬じゃなかった、ただそれだけさ」
「何だって? 猫といっしょになっちまったってことか?」「ああ、同じだ」
猫のことなら俺も知っていた。
先月、自分の猫を始末しなきゃならなかったからだ。
白に黒のぶちなんて不幸な星のもとに生まれついた雑種だった。
たしかに猫の増えすぎはがまんならないところまできていたし、
お国の科学者たちの言葉によれば、「茶色」を守るほうがよいという。
茶色だけ。
なぜって、茶色がもっとも都市生活に適していて、
子どもを産みすぎず、えさもはるかに少なくてすむことが、
あらゆる選別テストによって証明されたらしい。
なに色だって猫にはかわりないのに、とは思うが、
なんとかして問題を解決しなきゃならんというなら、
茶色以外の猫をとりのぞく制度にする法律だって仕方がない。
街の自警団の連中が毒入り団子を無料で配布していた。
えさに混ぜられ、あっという間に猫たちは処理された。
そのときは胸が痛んだが、人間ってやつは「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」ものだ。
でも犬にはさすがに驚いた。
なんでかはよくわからないが、猫より大きいし、
あるいはよく言われるように、人間のよき相棒だからかもしれない。
なんにしても、
シャルリーは俺が猫を処分したときと同じく、
なにごともなかったかのように話していた。
きっと彼は正しいのだろう。
あまり感傷的になっても仕方がないし、犬は茶色がいちばん丈夫というのはたぶん本当なんだろう。
もうお互いたいしてしゃべることもなくなったので俺たちは別れたが、妙な感じが残った。
まだお互いに言い足りないことでもあるかのように。
どこかすっきりしなかった。
それからしばらくして、今度は俺のほうが、『街の日常』の廃刊をシャルリーに教えた。
彼は腰を抜かした。
それは彼が毎朝カフェ・クレームを飲みながら読んでいる新聞だったからだ。
「廃刊だと? ストライキか? 倒産か?」
「いや、いや。例の犬事件のつづきさ」
「茶色の?」
「そう、あいかわらずさ」
あの新聞が国の今回の新しい法律をたたかない日は
1日だってなかったからね。
科学者連中の実験結果まで疑いだしたんだ。
読者はどう考えればよいのかわからなくなって、
犬を隠しはじめる者まで現われたんだ。
「危ない橋を渡りすぎたな……」
「そのとおり。ついに新聞も発禁にされちまって」
「なんてこったい。競馬情報はどうすりゃいいんだ?」
「そりゃあ、『茶色新報』を見るしかないだろう。
それしかもうないんだから。競馬とスポーツネタはましらしいぞ」
他の新聞がはみ出しものにされてしまった以上、ガアガアと口汚い新聞でも、なにか残っていてくれないと。
やっぱりニュース抜きってわけにはいかない。
その日はシャルリーともう1杯コーヒーを飲んだが、
『茶色新報』の読者にならなきゃいけないのかと思うとうっとうしかった。
しかし、ビストロの客たちは、いままでどおり自分の生活を続けていた。
きっと心配性の俺がばかなんだ。
それから、図書館の本の番だった。
これまた、あんまりすっきりした話じゃない。
『街の日常』の系列出版社がつぎつぎと裁判にかけられ、
そこの書籍は全部、図書館や本屋の棚から強制撤去を命じられた。
たしかに、その出版社が出しつづけている本をよく読んでみれば、
1冊に最低でも1回は犬や猫といった単語が出てくる。
けど、いつも茶色って言葉がいっしょにくっついてるわけがない。
そんなことくらい出版社のほうもわかってなくちゃいけなかった。
「行きすぎはまずいよ」とシャルリーは言った。
「法の網をかいくぐったり、いたちごっこをしたって、
国民には何の得にもならないんだしさ。あ……」
とシャルリーはまわりを見まわしながらつけくわえた。
「茶色のいたちな」。
だれに会話を聞かれているかわかったもんじゃない。
用心のために、言葉や単語に茶色をつけくわえるのが習慣となってしまっていた。
最初は、「茶色のパスティスを1杯」なんて
ばかみたいだったが、結局は、言葉なんて慣れの問題で、
仲間うちで何かにつけて「くそ野郎!」と言うのとおなじように、
茶色に染まることにも違和感を感じなくなっていた。
少なくとも、まわりからよく思われていさえすれば、放っておいてもらえるし。
そして、なんと俺たちは、とうとう競馬も当ててしまった。
まあ、たいした額じゃないんだが、それでも俺たちにとっては初めての当たり、茶色記念だぜ!
おかげで、新しい法律のわずらわしさも受け入れやすくなった。
いまでもよく覚えている。
ある日、チャンピオンズカップの決勝戦を見に、俺の家にこいよとシャルリーを誘ったら、
これが爆笑ものだった。なんとやつは新しい犬といっしょにあらわれたのだ!
みごとに鼻の頭からしっぽの先まで茶色で、眼まで栗色ときた。
「どうだい。いろいろあったが、こいつは前のより愛情深くて、ちょっと合図しただけで何でも言うことをきくんだぜ。黒いラブラドールであんなに大騒ぎするんじゃなかったよ」
シャルリーの言葉が終わらないうちに、犬がソファの下にいきなりもぐりこんで、
いかれたみたいにキャンキャンと吠えだした。
なんだ、なんだ、茶色だからって、俺は飼い主にだって、だれにだって従いやしないぞ!
とでも言うかのようだ。
そこでシャルリーははっと気づいた。「まさか、お前もか?」「ご名答。見ろよ」
その瞬間、俺の新しい猫が矢のようにあらわれて、カーテンをかけのぼったかと思うと、
タンスのうえに身をひるがえした。茶色の瞳と茶色の毛並みの雄猫だ。
俺たちは笑いころげた。なんという偶然だ!
俺は言った。
「いつも猫を飼ってきたから、だからさ……こいつ、いい猫だろ?」「すばらしいね」シャルリーは答えた。
それから俺たちはテレビをつけた。
そのあいだ、
茶色の動物たちは横目でおたがいの様子をうかがっていた。
どちらのチームが勝ったか、もう覚えていないが、
すごく快適な時間だったし、すっかり安心していた。
まるで、街の流れに逆らわないでいさえすれば安心が得られて、面倒にまきこまれることもなく、
生活も簡単になるかのようだった。茶色に守られた安心、それも悪くない。
もちろん、むかいの歩道ですれちがった、小さな男の子のことも頭に浮かびはした。
足もとで死んでいる白のプードルのために泣いていた。
だけどあの子だってきちんと話を聞けば、犬が禁止されたわけじゃなくて、
茶色のやつを探せばいいだけだとわかるさ。
子犬だって見つけられる。
そうすれば、俺たちだって同じように規則を守ってるんだと安心して、
死んじまった昔の犬のことなんてすぐに忘れるだろう。
そしてきのうだった。
信じられないことが起こった。
何も悪いことをしていないと、安心しきっていたこの俺が、
あやうく街の自警団の連中に捕まりそうになった。
茶色に身を包んだ、情け容赦のないやつらだ。
この界隈は初めてで、まだ住民全員の顔を覚えていなかったので、
俺のことがわからなかったらしく、助かった。
俺はシャルリーの家へ行くところだった。
日曜はシャルリーのところでトランプをすることになっていた。
手にはビールを1パック、ただそれだけだ。
ちびちびやりながら、2、3時間、勝負する予定だった。
ところが、たまげた。
やつのアパートのドアがこっぱみじんにされていて、
踊り場に陣どっていたふたりの自警団員が、やじうまの整理をしていた。
俺は上の階へ行くふりをして、エレベーターで降りた。下では人々がひそひそ話をしていた。
「だけどやつの犬はほんものの茶色だったぜ。俺たちも見たよな!」
「ああ、だけどあいつらが言うには、前は、茶じゃなく黒の犬を飼ってたからってことらしいぞ。黒色をな」
「前は、だって?」
「そう、前はだ」
いまじゃあ、前に茶色じゃないのを飼ってたことも犯罪なんだとさ。 そんなこと簡単にばれちまう。
近所に聞けばいいんだからな
俺は足を速めた。
冷や汗がひとすじシャツを濡らす。前に飼っていただけで違法になるなら、俺も自警団のいい餌食だ。
前に白黒の猫を飼ってたことは、俺の住んでる建物の住人ならだれだって知っている
前もだって!そんなこと考えもしなかった。
けさ、『茶色ラジオ』がそのニュースを流した。
きっとシャルリーは逮捕された500人のなかの1人だ。
最近、茶色の動物を購入したからといって、考え方が変わったことにはならない、と連中は言った。
「時期はいつであれ、法律に合わない犬あるいは猫を、飼った事実がある場合は、違法となります」
アナウンサーは「国家反逆罪」とまで言った。
そのつづきもしっかりと胸に刻まれた。
たとえ自分が法律に反する犬や猫を個人的に飼ったことがなかったとしても、
家族のだれか、たとえば、親、きょうだい、いとこなどが、生涯でたった1度でも飼ったことがあれば、
ひどく面倒なことになるという。
シャルリーがどこへ連れて行かれたかはわからない。これは明らかにやりすぎだ。
狂ってる。なのに俺ときたら、茶色の猫といっしょなら安全だとずっと思いこんでいた。
もちろん、連中が前ってやつを調べれば、犬や猫を愛する人間は全員逮捕されてしまうだろう。
ひと晩じゅう眠れなかった。
茶色党のやつらが最初のペット特別措置法を課してきやがったときから、警戒すべきだったんだ。
けっきょく、俺の猫は俺のものだったんだ。シャルリーの犬がシャルリーのものだったように。
いやだと言うべきだったんだ。抵抗すべきだったんだ。
でも、どうやって?
政府の動きはすばやかったし、
俺には仕事があるし、
毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い。
他の人たちだって、
ごたごたはごめんだから、
おとなしくしているんじゃないか?
だれかがドアをたたいている。
こんな朝早くなんて初めてだ。・・・・・・・
陽はまだ昇っていない。
外は茶色。
そんなに強くたたくのはやめてくれ。いま行くから。
| 勉強会資料 | 17:26 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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